前回紹介した動画で取り上げられている名前以外にも、ポケモンXYには凝った名前のものがまだまだある。とてもすべては書ききれないが、個人的に特に気になった名称の元ネタと思われるものをメモしておく。
次の情報は、英語版ポケモンwikiサイトBulbapediaを参考にしている。該当ページに飛べば各言語での名称や由来の候補などを見ることができるので、ここで取り上げていない名前も簡単に調べられる。
・カロス地方
カロス(κάλλος)は古典ギリシャ語で「美」。開発者の増田氏によれば、今作のテーマは「美しさ」であるとのこと。ちなみに現代ギリシャ語でもカロス(καλός ロにアクセント)は「良い」という意味。
それぞれの街や観光名所は、フランス中部・北部に実在する場所をモデルにしている。パルファム宮殿はヴェルサイユ宮殿、マスタータワーはモン・サン=ミッシェル、10番道路からセキタイタウンへと続く列石がカルナック列石などなど。
・シシコ
獅子+子。英語でもLitleo(little小さな+leoライオンを表すラテン語)なので由来が全く同じ。興味深いのはフランス語版のHélioncea(おそらくHelios太陽神ヘリオス+lionceau子ライオン)。"lio"でひっかけつつ、同時にほのおタイプであることも示唆するうまいネーミング。
・カエンジシ
火炎+獅子。フランス語版ではNéméliosで、「ネメア(の獅子)」と「太陽神ヘリオス」をかけあわせていると思われる。シシコに続き、ギリシャ神話をバックグラウンドにすえた教養あふれるネーミング。名前負けしてないだろうか。
・ブロスター
おそらくブラスターとロブスターのダジャレ。さすがに直球すぎるのか英語版ではClawitzer(clawエビのはさみ+howitzer榴弾砲)となっている。
・クレッフィ
フランス語で「鍵」を表すclefから。英語版・スペイン語版・イタリア語版も同じ由来でKlefki(clef+keyカギ?)。
・ルチャブル
メキシカンプロレス「ルチャリブレ」から。英語版ではHawlucha(hawkタカ+lucha libreルチャリブレ)となっていて元ネタはほぼ同じだが、なんとベースがタカだったことが判明!と思いきやドイツ語版はResladeroになっていて、名前にワシ(adler)のアナグラムが入っている。タカなのかワシなのか、その正体は謎のまま。
・マーイーカ
ソーナンスの衝撃再び。英語版でもInkay(inkyスミで真っ黒な+Okay)とギャグの方向性まで全く同じ。発音すると別の意味で少し恥ずかしい気持ちになる。
・カラマネロ
カラマリは「イカ」あるいは「イカフライ」のこと。なんとなく日本語に聞こえるおもしろい言葉。ネロはnero di seppia(イカスミ)を意識したものと思われる。ギリシャ語の水(νερό)かとも思ったが、みずタイプではないのでおそらく違う。英語版はMalamar。こちらもなんだか恥ずかしい。
・フラダリ
fleur-de-lis(フランス語で「ユリの花」)から。よく見かける意匠・紋章の「フルール・ド・リス」も同じだが、そちらはアヤメ(説によってはユリ)を模ったとされる。セインツロウなどでもお馴染みのマーク。英語読みでは語尾のsを読まないので、まんま「フラダリ」に近い発音になる。そのため英語版・フランス語版では少しひねってLysandreになっているが由来は同じ。
Citroënは無関係? |
シトロン(citron)はフランス語で「レモン」の意味。どうしてもパリの自動車メーカーであるシトロエン(Citroën)を思い浮かべてしまうが、関係ないのだろうか?~トロン(-tron)は電気に関係する語につくので、発明家にピッタリの名前といえる。もしかしたら名前から設定を考えたのかも。英語版でも同様にレモンにひっかけてClemontという名前になっている。
・ユリーカ
レモンの品種「ユーレカ(ユリーカ)」から。古代ギリシャの科学者アルキメデスが、アルキメデスの法則を発見した際に叫んだ言葉(「わかったぞ!」)としても有名で、やはり方向性としてはシトロンと似ている。英語ではBonnieという名前で、これは別のレモンの品種から。フランス語版・イタリア語版・スペイン語版ではシトロンがLem、ユリーカがClemになっていて一発でコンビだと分かるネーミング。
・ティエルノ
スペイン語で「優しい、やわらかい」の意味。スペイン語版ではBeni(「親切な」という意味のbenignoから)という名前になっている。
・トロバ
イタリア語で「発見する、考える」の意味。
・サナ
アラビア語で「輝き、素晴らしさ」の意味らしい。3人ともその性格にぴったりの名前。
・カルム/セレナ(主人公・ライバル)
どちらも「穏やかな、落ち着いた」を意味する英語あるいはフランス語から。主人公になったときの無口さ、ライバルになったときのクールさを示しているのだろうか。
・サキ(主人公の母親)
スペイン語版がVera(春という意味のprimaveraから)であり、またフランス語版・ ドイツ語版・イタリア語版がPrimula(サクラソウ)であることから考えると最初に咲く花=「先/咲き」の説が有力。ただし、サイホーンレースの選手 であり、また英語名がGrace(race=レース)となっていることから考えると「"サーキ"ット」からという説も?もちろん単に語感のいい名前をつけただけで特に意味はないという可能性も十分ある。
他にも、街やきのみの名前、人名などは過去作同様ほとんどが植物から取られている。
今から170年前アメリカの作家ポーが書いた『モルグ街の殺人』に登場するパリは、様々な国籍・人種の人間が交じり合う中心都市だった。そんな街の住人たちは、外国人に対する疑念や恐怖心を常に抱いていて、ひとたび残忍な殺人事件が起こると、その不信感をあらわにする――実際のところがどうだったかはわからないが、少なくともポーが描いたパリのイメージはこういうものだった。
ポケモンXYで描かれるカロス地方も、多種多様な文化が入り混じっていて、名前の由来からもその一端がうかがえる。ただ、そこにはもうモルグ街のような暗い影はない。「現実世界のフランスとはかけ離れている」「旅行者目線のフランスだ」と揶揄されるかもしれないが、別にそれでいい。フランスはただのモデルだから…とか、子供向けだから…なんていう言い訳に頼らずとも、「こういう世界にしたい」という夢や希望そのものがゲームのテーマのひとつである、ということが伝わってくるからだ。
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