2013年6月17日月曜日

マザー2の暗黒面 ネスが倒したものって何?


Youtubeに投稿されている Game Theory シリーズより、『マザー2(EarthBound)』の分析を翻訳。





Game Theory: Earthbound, The Dark Side of Mother


 「さあ「いちごとうふ」を食べて、カメラに向かってピースをキメよう!なんたって今週はMotherにアタックするんですから!ネットの皆さんこんにちは!Game Theoryにようこそ。ブレインショックのPSIと共にお届けするこの動画。


 第11回では、『高橋名人の冒険島』を発見するべく太平洋を横断したわけですが、その際僕のお気に入りゲームランキングトップ10を発表しました。今週は、さらにもうひとつ秘密を明かさなければなりません。そうです。白状しましょう。僕はEarthBoundの大ファンであり、ネス大好き人間であり、「チーズ、サンドイッチ」愛好家なんです!とにかく「クロノトリガー」と肩を並べて堂々1位なわけです。だって、定規振り回してるヒッピーやら、ScrewAttackの元メンバー(敵キャラHandsome Tomのこと)やら、ぎょろ目のゲロやらと戦闘するゲームなんて他にありませんからね!


 確かにEarthBoundは、多くの人から愛される名作であり、最もおもしろくてユニークなゲームのひとつとして賞賛されています。ですが僕には、バットを持った少年と隣人のおデブちゃんが織り成す派手なドタバタ劇の裏に、どうも暗い影が潜んでいるように思えてなりません。というわけで「ミスターのぼうし」はかぶっておいてくださいね。ゲーム史上最も気味の悪いラスボスの誕生秘話、化学兵器テロ、警官の暴行事件、売春婦、四肢切断なんていう話題を取り上げますので。


 一見するとEarthBoundは、ひねりの効いたユーモアを交えた、単なる風変わりなRPGにも思えます。199X年、超能力の使い手である無口な主人公ネスは、仲間と共にギーグという異星人たちから世界を救うこととなります。クロノトリガーと似ていますが、タイムトラベルもエーテルもクロスボウもありません。その代わりピザとフライパンが登場します。音楽はアニメ『ロッコーのモダンライフ』をキャッチーな電子音に変えた感じで、色彩は日曜の朝刊のマンガ風からサイケな幻覚調までさまざま。ただ、この『魔法少女レインボーブライト』みたいなセンスは、背後にある重いテーマをうまく隠しているともいえます。


 その証拠に、最も怖いボスランキングなどには必ずといっていいほど…[ネタバレ注意!] EarthBoundのラスボス「ギーグ」の名が挙がるのです。変ですよね。このゲームにはハローキティのぬいぐるみ以上に怖いボスなんて存在しないはずなのに。きゃー!巨大アリ!いやーん!疫病ネズミ!…ですが、見てくださいこれ。ねじれた腸の上を歩くなんて、もはや別ゲーです。最終的にコレと戦って、こうなります。ディレクターの糸井重里氏は、『憲兵とバラバラ死美人』のレイプシーンの記憶がギーグに繋がったと認めています(実際の映画には殺人シーンはありますが、レイプシーンはありません)。子供の頃たまたまこの成人向け映画を見てトラウマになったそうです。このことは「キモチイイ」や「イタイ」といったセリフからも見て取れます。この説はファンの反感を買いそうなので深入りはしませんが、ボスの形が…(心の準備はいいですか?)…「胎児」の形状をしていると多くの人間が指摘しています。マジです。言われてみれば確かに内臓の上を歩いてますし、この黒い部分を見てください。まるで出来の悪いロールシャッハテストのようですね。たとえこれが赤ん坊ではないにせよ、「EarthBoundには暗いテーマがある」と判断するのは、さほど飛躍した考え方ではなさそうです。


 次にこのカルト教団を見てみましょう。あ、いえいえ。EarthBoundのファンの人たちのことじゃありません。ゲームで描かれるこのカルトの名は「ハッピーハッピー教」。その教義は「村中を愉快にする("paint the town red")」ために文字どおり「村中を青に塗って("paint the town blue")」しまえという内容ですから、なんとも笑えます。牛や木も真っ青ですね。さきほどの卵管の道と同じように、注意深く見るとかなり不穏な空気が漂ってきます。オウム真理教は1984年に日本で設立されたカルト集団で、教祖は空中浮遊ができると自負する、盲目に近い鍼師の男でした。これが紋章で、こちらが伝統衣装に身を包んだ教祖の画像です。この色、見覚えありませんか?さらにこの教団は90年代までにその知名度を高め、選挙に出馬するまでになります。当選はしませんでしたが、その選挙活動は歌ありダンスあり笑顔の風船ありで、全体的に「ハッピー」な雰囲気でした。まだ半信半疑な方もいると思いますが、EarthBoundのハッピー教との類似点はまだあります。オウムの本部は小さな農村に位置していましたが、このことはゲーム中教団の村にいる唯一の動物が牛であることを考えると、全く違った意味合いを帯びてくるのではないでしょうか。さて、ではこの教団は一体何なのでしょう?オウム真理教は1993年、猛毒の神経ガスサリンを製造し始めました。このガスは長野県松本市で使用され8名の死者と200名の負傷者を出し、罪のない一般市民を標的にした生物兵器による最初のテロ事件となります。さらに1995年には東京の地下鉄が狙われました。液体サリンを入れた袋を、ガスを発生させる溶媒で満たした袋と共に新聞紙で包み、床に置いて、降りると同時に傘で突きます。 この猛毒ガスによって12名を殺害、5000名に被害を及ぼしました。その後、教団施設に強制捜査が行われると、爆発物や炭疽菌、エボラ・ウイルスさらにはロシアの軍用ヘリが発見されることとなります。この背景を知ると、世界を青く塗ろうとするばかげたカルト集団が、とても邪悪なものに感じられますよね。


 子供向けからかけ離れたテーマはまだあります。警官による理不尽な暴行事件はどうでしょう?1994年以前のゲームでこの件を扱ったゲームをご存知でしょうか?1994年以降では?暴力ゲーの金字塔であるGrand Theft Autoですら、プレイヤーが通行人をボコボコにしない限り警官はこちらを狙ってきませんよね。ですがEarthBoundの少年ネスは、ボスを倒した後警察署に連れて行かれ、そこで4人の警官(5人目はビビって逃げます)さらには署長に襲われるのです。ヒドすぎ!…ただ、ある意味「正確」であるともいえます。90年代は「警官の残虐行為」という言葉が表立って知られるようになった時代でした。一番有名なのは1991年のロドニー・キング事件でしょう。ロス市警は、キングが飲酒運転をしていたとして停車を要求。カーチェイスの末、警官たちはキングをテーザー銃で制圧し、何度も蹴りを入れた挙句、警棒で56回も殴打したのです。1992年には警官側が裁判で無罪となったことを受け、あの有名なロス暴動へと発展しました。興味深い話ですが、EarthBoundと何か関係があるのでしょうか?ネスは4人の警官と署長から攻撃を受けた、ということを思い出してください。では、ロドニー・キングに暴行をはたらいたのは?そうです。4人の警官と巡査部長です。


 では、売春婦からホテルの一室に誘われ、追い剥ぎにあうシーンは?もちろん。EarthBoundにありましたよね。腕と足と耳を切り落とされ、目を潰され、最後には心を奪い取られることを自ら選択するシーンは?それもあります。ヘンテコなユーモアと明るい雰囲気に覆い隠されていたため、子供の頃の自分はじっくりその意味を考えるなんてことはしませんでした。もっとも、最後の試練だけは別で、先祖の霊に目を抜かれるなんて絶対に嫌だとは思っていましたが…


 既存のものとは違ったRPGを目指していた糸井氏は、「現実の世界に即したゲームにしよう」と決めたわけですが、それは単にポーションをハンバーガーに置き換え、商人をデパートに変えただけ、というようなものではありませんでした。糸井氏は、僕たちが日々メディアで目にする問題を扱っていたわけです。性犯罪や、宗教への妄信、暴力など…ただし、ユーモアをひとつまみと、風変わりな物語をひとさじ加えて。EarthBoundは、一人の少年がエイリアンの脅威から世界を救う話ではありません。一人の少年が家を離れ、この世界の良い部分や悪い部分の両方を経験しながら成長していく物語です。だからギーグは恐ろしいんだと思います。糸井氏が子供の純真さを失った瞬間なのですから。そして、だからこそ、あのエンディングは満ち足りた気分になれるのです。ネスは闇と対峙し、それを打ち破った。大人への一歩を踏み出したんです。ネスが成長するのを、僕たちはプレイヤーとして見守っていたわけです。最高のゲーム体験だと思いますし、是非皆さんにも味わって欲しいと思います。とはいっても、これはただの一説!Game Theoryなんですけどね!」





 正直、オウム事件やロス暴動との関連などは深読みしすぎな気もするけど、それでもゲーム外部との関わりを指摘するこういうアプローチはやっぱりおもしろい。

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